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掃除中に引き出しから切符が出て私は手を止めた。
恋の片道切符だ。と、自嘲しながら五年前別れた彼の事を思い出す。
私は子供だった。
だから彼が就職が決まった時、私も連れて行ってくれるなんて考えていたのだ。
渡された入場の切符を使い、驚かそうとポケットに忍ばせた最も遠い駅への切符は使わなかった。
ホームで別れを言われたからだ。
ふと決めた。
大人になろう。
切符を持って駅に向かう。
着いて早々、駅員と目があったので切符を差し出す。
「これでは入れないです」
駅員が言ったので、首を捻る。
「有効期限があるんです、ほらここに」
切符の一部を指差している所を私は読んだ。
「当日限り」
駅員がその通りと言う様に頷いた。
そうか、この切符で大人になろうなんてのは甘い考えなのだ。
新しい切符を買って、駅員に見せると不思議そうに言った。
「さっきと逆の方向で良いのですか?」
「ええ、もちろん」
その他
公開:18/03/06 23:29

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