第32話「スマホ買って」

三女の翠が、
「お姉ちゃんスマホ買って！」
と悲壮な顔でしきりに言うのだが、
「中学に上がったら、ね。もうちょっとじゃない」
と言ってごまかしていた。ウチの事情もよくわかっていてあまり物をねだらない翠が、珍しいな、と思っていた。

ある日、翠の授業参観に出た。算数の授業だった。黒板がホワイトボードに変わっていて驚いた。
私は算数が得意だったので、いつも酷い点を取ってくる翠が授業中どうしているのかが心配だったが、しっかり手を挙げて正答している。
じゃあなんで？　と考えているうち、授業も終わりに近づき、
「ここは来週テストに出ますからね。しっかりウツしておくように」
と先生が言った途端、生徒たちはいっせいにスマホをやタブレットを取り出してカシャカシャやり出した。やっていないのは……翠だけだった。すると、翠がサッと振り向き、
「お姉ちゃん！　スマホ買って！」
と叫んだ。
帰りに電話屋に寄った。