帰巣本能をもった色鉛筆

7
193

水色の色鉛筆は池のほとりで途方に暮れていた。
持ち主の由美子ちゃんをはじめ、写生会を行なっていた5年生達の姿はもう見当たらない。

きっと由美子ちゃんは水色が無いと困るだろう。

水色の色鉛筆は意を決して家に帰ることにした。
コンクリートの上を転がり、電線の上を伝い、1時間ほどで由美子ちゃんの家についた。

開いている窓から部屋をのぞくと由美子ちゃんの姿はなかった。部屋の中に入り、色鉛筆の缶を開けると、自分がいたはずの場所には背の高い水色の色鉛筆がいた。
居場所を失った僕は途方に暮れて窓から外へ出た。
地面に落ちたときに芯が折れてしまった。

その直後、由美子ちゃんが塾から帰ってきた。由美子ちゃんは僕を見つけ、拾い上げて部屋へ向かった。

僕は削られたあと、キャップをつけられ筆箱の中にしまわれた。

由美子ちゃんと過ごす時間が増えたことで、だいぶ短くなってきたけれど、色鉛筆冥利につきるよ。
その他
公開:18/03/06 00:21

ぱせりん( ひろしま )

北海道出身です。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容