有限生成アーベル群

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 代数学の講義のことだった。暖房のかかってない冬の寂しい教室で講師は虚空と議論するように

「これは有限生成アーベル群」

とつぶやき黒板に書きなぐった。
 
 数学の中でも抽象的で理解が難しい代数学でこの単語が頭から離れなくなった。これが一体何なのか今でもよくわからないが、頭から離れない。そして講師はまた、ささやくような声で

「定義から有限生成アーベル群なので」

と黒板に板書した。
 
 これはどういうものなのか。理解をしようとしても難しく脳が受け付けない。しかしそのフレーズだけは頭の中に残留し、いつまでも生き続けるような気がした。体に重くのしかかるような気がして気味が悪い。エヴァリスト・ガロアが残した命の残滓だとしたら、それはとてつもなく熱を持っているような気がした。

 若くして決闘で死んだ情熱の数学者の命の中で、有限生成アーベル群となって現世に生きているのかもしれない。
ファンタジー
公開:18/03/02 12:18

ヒルタ

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