海から上がるモノ

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陸上の街で、私たちは暮らしている。
春風が髪を掬い、小鳥が歌をさえずる。
産まれた子は綿毛のベッドに寝かされ、死んだ者はふきの葉で包まれて海に蒔かれる。
夏にはホタルが地上に天の川を作り、冬には雪が私たちを覆い隠す。
広大な大地の中で、長やかな時間の中で、私たちは薄く、瞬刻の時を生きている。

時折、海の波が泡立つことがある。
それらはふわふわと風に漂い、辿り着いた陸地で小さな音を発する。
私たちは海底の民を見たことが無く、また、言葉も通じない。
けれどその泡が私たちに見せる慈しみは、私たちの営みと同じものである。
あれはきっと、海底に生きた誰かの思いなのだろう。

その泡が幾多も集まって、そしてまた、私たちが産まれる。
その他
公開:18/03/03 00:21
更新:18/03/03 14:58

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