ハクサンチドリ

あの子に告白する勇気が無くて、悩んでいた時だった。ある花屋の店先で見かけたハクサンチドリの美しさに心奪われた。店主によると、栽培するのが難しいこの花を育て上げて８月７日（花の日ってことらしい）にする告白は成功率１００％という古くからの言い伝えがあるそうだ。
それを聞いて僕は決心した。ハクサンチドリの苗を買った。そして８月７日に向けてひたすら頑張った。この小さな植物に愛情を注いで育てた。これほど頑張れたのは、やはりあの子のことが好きだからに違いない。
そしてとうとうやって来た８月７日。僕が育てたハクサンチドリは、赤紫色の美しい花がたくさん咲いていた。どことなく、あの子に似ている気がした。すべて順調に進むように思えた。この時までは。
あの子から良い返事はもらえなかった。言い伝えの８月７日は旧暦の日付だということに、あとから気が付いた。ハクサンチドリの花言葉は「間違い」だそうだ。