手向ける

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つややかな花びらに雫が落ちる。明かりを受けて、時折光る。
私はそろそろと歩みを進める。

中はすでに白い。私はそこへ更に白を足そうとしている。白いアヤメは綺麗でしょう、と笑っていた顔は、白に埋もれ眠っている。
手が震える。花びらの雫は手首を伝い彼女の頬に落ち、すうっと流れる。どこかで、見た。

不謹慎だと思ったのだった。恩師を見送った日。私には実感が無かった。ぼんやりと隣の彼女の方を見ると、大きな目から雫がこぼれ、頬をすうっと流れた。その雫に、目を奪われた。綺麗だった。あまりに綺麗で嬉しいとさえ思った。だが彼女の口元は震えていた。

その彼女の頬を、また雫が流れている。綺麗だが顔は穏やかで、どうして私はまた、彼女を見ているのだろう。

そっと蓋が閉じられた。
私は後ろに下がる。
綺麗とは程遠い顔の自分がおかしい。だが氾濫した雫に覆われて上手く笑えない。
彼女も綺麗な雫も、もう、見えない。
その他
公開:18/03/01 23:56

秋ノ耀( 東京 )

小説、特に短編を書いています。
 

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