マグネットフラワー

ゴーグルとマスクで顔はほぼ隠したのに、目も鼻もむずむずする。片手に箱ティッシュを携えて玄関を出た。花粉の季節とはいえ愛犬こまめの散歩をサボるわけにはいかない。
人気のない川岸でリードを離す。今では僕の太ももより立派になった体で軽やかにジャンプしタンポポの綿毛と戯れている。
やっぱり100均のマスクじゃだめらしく、くしゃみが止まらず何度も鼻をかんだ。ぼんやりした頭でふと足元に目をやると小さな花を見つけた。深い紺色をしたその花からは魅惑的な香りが立ち上っている。鼻を近づけるとピタッと花弁にくっついて離れなくなってしまった。地面に手をつき顔を離そうとしてもびくともしない。どうしたんだ？
楽しそうに駆け回っていた小五郎が飛びついてきた拍子になんとか離れたが、真っ赤になった僕の鼻と紺色の花が引き合ってしまったようだ。
この花をマグネットフラワーと名付よう。
今度はいちごでもくっつけてみるか。