揺りかご

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目を覚ますと、淡い色の壁に囲まれていた。時折ふわりと揺れる。風だ。
ここはどこだろう。柔らかそうな壁に囲まれた、丸い空間。覚えがない。

背中がむず痒い。何かが背中にある。壁に、薄くて平たい影が映っていた。力を入れると、開いたり閉じたりする。こんなもの、前は無かった。いつからあるのだろう。

ふいに体から力が抜けた。何もできず横たわると、近くに並んでいる細長い筒に目がとまった。どうにか近付き口を突っ込むと、透明な液体が口の中でとろけた。体に染み込んでいく。力が戻り、意識がはっきりしてきた。

そうか。
葉を食べて大きくなり、枝にしがみつき長い眠りについていた。その後、ようやくサナギから出たところで、強い風に飛ばされたのだ。運良くここに落ちたらしい。

つまり今は、待ちに待った季節。憧れだった羽を丁寧に動かす。この壁の向こうには、きっと見たことのない世界がある。体がゆっくりと宙に浮いた。
その他
公開:18/02/24 01:29

秋ノ耀( 東京 )

小説、特に短編を書いています。
 

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