「珍しいお花売っています」

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秋晴れの週末、僕はひとりでドライブに出かけた。
帰り道、街はずれで「珍しいお花売っています」という看板を見つけた。軽トラの荷台に花を積んだだけの小さな販売車だった。寄ってみたが、どれも見慣れた花ばかりに思えた。帰ろうとしたとき、「これ、どうぞ」と声がした。花売りの若い女性が、琥珀色の葉に白い泡のような花を手際よく包んで差し出した。「『ビールの花』です。一日花ですけど、楽しんでくださいね」と。

家に帰り、花を花瓶に活けて眠った。
夜更けに、プシュッ、プシュッという音で目を覚ました。花瓶から部屋中に無数の泡が浮かびあがり、ほろ苦い香りを放ちながら、月明かりを受けてキラキラと輝いていた。
やがて泡は次々と消えていき、香りだけが余韻のように残った。
ふと、ふたつのグラスにやわらかく美しい泡が立っていたあの夜の記憶がよみがえった。静かに、儚く、そしてほろ苦く。
ファンタジー
公開:25/10/19 03:09
更新:25/10/19 03:24

ジャスミンティー

2023年10月から参加しています。作品を読んでいただき、ありがとうございます。

noteへの投稿も始めました。よろしかったら、そちらもご覧ください。エッセイ、短歌なども載せています。https://note.com/real_condor254 
 

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