十一階の踊り場で

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中央線某駅直結の高層ビル最上階。非常ベルが鳴るのであわてて降りる。エレベーターは停止。非常階段にどっと人が溢れて入る。雑踏のなか足がもつれて早く降りられない。まずは駅まで急げ。と、十一階の踊り場に猫の着ぐるみがショーケースの前で喋っている。この非常時に何とも呑気なものだ。着ぐるみは女だろう。身体の線がなまめかしい。くねくねとした腰の振りに立ち止まってしまった。
ケースにはショートケーキが並んでいる。背後ではばたばたと人混みが過ぎる。猫はこれは何々でそれは何々でとカタカナばかり。チンプンカンプンで聞いていると隣に軍服姿の男が入りこんできた。いでたちは第二次大戦の日本兵の格好か。ビルで演劇でもあってその劇団員なのか。男は顔を寄せてケースに並んだショートケーキを端から舐めるように見つめる。ぶつぶつと呟きながら三番目のケーキをじっと睨むとケーキのイチゴの色が変わって、生臭い小魚になってしまった。
その他
公開:25/11/16 10:21

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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