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会社をクビになった。
張り詰めたものを失い、時間を持て余していた。
「これからどうしよう」
自問しても、川面の糸は動かない。

隣に老婆が腰掛けた。彼女は網をそばに置き、川に映るグミの木の影をじっと見つめた。
夕暮れが近づき、川面がオレンジに染まった。枝の影が茜色に輝くと、彼女は網を入れ、影から金色の実をすくいあげた。
「それは?」
「グビの実。しらんのか」
グビとは「グビッ」という音の原料らしい。彼女はその実をいくつか寄越した。口に放り込むと「しゅわ」という泡が舌で弾け、飲み込むと深く澄んだ「グビッ」が喉で鳴った。不思議とお腹のモヤモヤが泡となって消えていった。
その時、頭上の堤防をかつての後輩が忙しなく通り過ぎていく姿を見つけた。行き先は会社だろう。彼は僕に気づかない。
僕は頬を夕陽に赤く染め、グビの実を口に放り込んだ。「グビッ」と喉に響かせ、僕は腹に力をこめて「おーい」と声をかけた。
公開:25/11/09 23:36
更新:25/11/09 23:59

イチフジ( 地球 )

マイペースに書いてきます。
感想いただけると嬉しいです。

100 サクラ

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