キンキンに冷やすには

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 一人で山暮らしをしている和也の元を訪れた僕には、その生活ぶりは新鮮だった。電気もガスも水道もなく、灯りは灯油ランプ、水は湧き水、風呂と料理は焚き木を使っている。
「でも、最新型の冷蔵庫はあるんだぜ」
 和也は得意げだった。
「電気ないのに?」
 訝しむ僕を横目に、彼は黒い突起のある奇妙な箱を開けてビールを取り出す。手にするとキンキンに冷えている。
「山の氷でも入っているのか?」
 彼は突起を指して説明する。それがマイクで、ビールを旨そうに飲むと音が電気信号に変換され、冷蔵庫を冷やすという。
 僕は、ビールの缶を開け、マイクの近くで「ゴキュッゴキュッ」と飲み干した。友人は慌てて「もっとゆっくり飲めよ」と窘める。
 彼がトイレに立った時、うるさく言われないうちにもう一本ゴクゴク飲み干した。戻って来た彼は冷蔵庫を開けて、ため息をついた。
「ああ、ゆっくりって言ったのに。凍っちまったよ」
SF
公開:25/11/09 23:36

吉村うにうに( 埼玉県 )

はじめまして。田丸先生の講座をきっかけに小説を書き始めました。最近は、やや長めの小説を書くことが多かったのですが、『渋谷ショートショート大賞』をきっかけにこちらに登録させていただきました。
飼い猫はノルウェージャンフォレストキャットです。
宜しくお願い致します

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