能業

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「脱サラして『のうぎょう』を始めたんだ」
「農業って大変じゃないの?」
「能力を開花させるための『能業』だよ。やり方は確かに農業と似ているけどね。
まずは土を耕し畑を作り、能力の種を蒔いて水や肥料を適度にやる。ときどき無事に能力が花開くよう能楽を行い五穀豊穣を祈る。それでうまく能力の花が開けば、そのあとに実る種を収穫する。その種を飲むと、誰もが持つ潜在能力が開花するんだ。能力は伸びて成長し、立派に育てば、その能力が高く評価されて成功を収める。特に無農薬の能力の種は効果覿面で人気があってね。『蒔かぬ種は生えぬ』とはよく言ったものだ。
能業をやっている人間は、まだ自分も含めて少ないから、仲間同士で能力の種を共同で購入・販売したり流通を円滑にするための『能協』を設立した。ただ、『能ある鷹は爪を隠す』と言うように、能力はひけらかすものではないので、能力の種は口コミで広めるしかないのが玉に瑕なんだ」
その他
公開:24/04/27 06:07
農業 能力 開花 肥料 能楽 蒔かぬ種は生えぬ 能ある鷹は爪を隠す

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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