パレット

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僕はパレット。でも、ただのパレットじゃない。偉大な画家のパレットなのだ。
だから僕はずっと不安だ。偉大な画家のパレットでいいのだろうか、こんな弱気な僕で本当にいいのだろうか、と。
偉大な画家は、使っている道具さえも絵に変えるらしい。彼が使った後の道具はみんな美しいグラデーションが広がり、一枚の絵が描きこまれたようになっている。気弱な僕はそれが、見合っていないように感じられるのだ。
そう水洗バケツにこぼすと、彼は笑って言った。
「確かに君はそう感じているかもしれない。でも、私に無いものを君は持っている」
彼が言う通りにパレットの隅を見ると、小さく名前が書いてある。
「あの方は自分のお気に入りに名前を書く癖があってね。君にそれがあるということは、そういうことだ」
その時僕は、僕の中の色がはっきり変わるのを感じた。
僕はパレット。でも、ただのパレットじゃない。偉大な画家のパレットなのだ。
ファンタジー
公開:24/04/25 00:35
ファンタジー パレット 絵描き 画家 水洗バケツ

ちむ( 愛媛県 )

文を書くことにハマり、最近活動を始めたひよっこ高校生です。お手柔らかにお願いします。

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