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夜遅く一人暮らしのマンションに帰ってくると部屋に脚が一本立っている。太腿から下、足にはスリッパを履いている。ズボンに見覚えがある。俺のビジネススーツのズボンだ。
右脚だ、と気づいて俺の右脚を見ると腿から下がすうっと消えている。しかし体感は脚を感じて、両脚で立っているつもりだ。痛くも何ともない。狐につつまれるとはこんな感じか。
「やあ」と立っている右脚が喋った。「早く帰ったよ。文字通り一足お先に」と冗談を言う。
「お前は俺の脚だよな」「その通り」「右脚だけ分離したってことか」「その通り」
食事は済ませてきた。もう寝よう。スーツのズボンを脱ぐと脚のズボンもするりと落ちた。脚だけ立っているが確かに俺の右脚だ。
「シャワーは?」「いいよ、寝る」
シャワーを浴びる。ベッドが盛り上がっている。脚は先に寝たらしい。俺もベッドに入る。今日は疲れた。眠ろう。朝には脚がちゃんとつながっていることを願いながら。
その他
公開:23/10/11 18:30

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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