8
3

工房にオレンジ色の灯りが灯る。

所々に雨雲みたいな染みの浮かぶ茜色のエプロンをつけて、師匠は大きな欠伸をしつつインクの瓶を選んでいる。そんないつも通りの光景を横目に、師匠の一番弟子である僕は、大きな窓枠を師匠のお気に入りの椅子の前にガタリとセットして、朝露を集めたバケツをサイドテーブルに置く。バケツの中の朝露がトプンと跳ねる。
やがて、師匠はカチャカチャと音をたてながら、バリエーション豊かなオレンジ色の瓶の数々を持ってきて、僕の用意した窓枠の前にゆったりと座り、琥珀色の絵筆をとる。
朝露にチャプンと絵筆をよく浸し、窓枠の中に濡れた絵筆を丁寧に滑らせると、水晶の様な膜が出来上がる。朝日の様に輝くそれに「これだと明る過ぎるが、これだとやや暗い…」とぶつぶつ零しつつ、師匠はオレンジ色のインクを絵筆にのせ、窓枠の中へポタリと落として伸ばしていく。
こうして今日も、美しい夜明けの空は完成するのだ。
その他
公開:23/08/21 20:38

ネモフィラ(花笑みの旅人)( 気の向くまま )

いつもご訪問ありがとうございます!
元:ネモフィラは咲うです。大原さやかさんのラジオ「月の音色」では、ペンネーム:花笑みの旅人として投稿しております。

日常に寄り添い、読んだ人がほんのすこ~しだけ前向きになれるような物語を書けたらいいなぁと思っています。

現在、少々多忙につき投稿のみのログインになる可能性が高いです。よろしくお願いいたします!

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容