蒲鉾の桜

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「可愛すぎて食べられないな」
箱根登山鉄道の車内で撮影した動画をテレビで見ながら、取り寄せた花見セットの蒲鉾を箸でつつく。紅白の桜の形をした蒲鉾は君の頬のようにふっくら可憐だ。ぐびりと地ビールを飲み込んだ。
時おり、煌めく桜に一喜一憂する妻に抱っこされた君が画面に映る。
『見て、桜の蒲鉾が入ってるよ。あっ、これ金粉かな、豪華ね』
『金の桜か、何か良いこと有りそうだな』と、自分の声のすぐ後に妻の悲鳴が入り一度動画が止まった。まだ一歳にも満たない娘が、弁当をひっくり返したからだった。その時の妻の恨みがましい顔が今でも忘れられない。娘は上機嫌で靴下が脱げた足をぱたぱたと揺らしていた。

「もう、お父さん。またそれ見てるの」
引っ越し準備で汗まみれの娘が呆れ顔でやってきた。少し遠い大学へ進学する。
「これちょうだい」
ひょいと桜の蒲鉾を口に頬張り自室に引き上げていった。
もうすぐ娘の旅立ちだ。
青春
公開:21/04/08 10:50
秋田柴子さん『銀色の桜』と 創樹さん『金色の桜』と 水素カフェさん『銅色の桜』より 蒲鉾の桜で別の話を書く 形式無視になってしまいました すみませんm(__)m かまぼこの里 箱根登山鉄道

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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