ケーキドーム

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若いころからおしゃれでハイカラだった祖母が、オードリー・ヘプバーンに憧れてイタリアのローマを訪れたとき、蚤の市で購入したというレトロなガラス製のケーキドーム。
おばあちゃん子だった孫娘の私は、このケーキドームに祖母が手作りで焼いたクッキーやマフィンを入れて、おやつの午後三時に出してくれるのが大のお気に入りだった。
あれから十数年後、祖母が最愛の祖父を亡くし、老人ホームに入居することが決まり、ケーキドームを私が譲り受けた。
ある日の午後三時、ケーキドームが劇場の開演時間に鳴るブザー音を発した。
驚いてケーキドームの方を見ると、透明な容器の中で、少女が大人の女性になり、年老いていくまでのシーンがモノクロ映画のように流れた。間違いなく祖母だ。
その不思議な出来事があってから数日後、祖母は老人ホームで息を引き取った。
私は今、自家製の焼き菓子をケーキドームに入れて、幼い娘のおやつ時間に出している。
青春
公開:20/05/10 07:20
更新:20/05/10 07:33
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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