海底二万作

静寂に包まれる深海の底、一隻の潜水艦が岩陰に隠れていた。海底二万里の旅、しばしの休暇だ。

突然、轟音が鳴り響いた。

ピーッ

「敵船、いや大量の魚影？物凄い数です！」

探知機の画面にはびっしりと点が並び、まるで生き物のようにゆっくりと迫ってくる。

「ライト！カメラ！前方を捉えろ！」

大量の魚影はゆっくりと潜水艦の方へ向かってきた。

「魚ではなく、文字です！」

ひらがな、カタカナ、漢字、アルファベット、何百万もの数の文字が群になって潜水艦に迫ってくる。その群はまるで角を持った巨大な鯨のように見えた。

「衝突します！」

一気に船員達の脳内に大量の文字が溢れた。処理できない量で大半が文字酔いした。しかし艦長は目を震わせて叫んだ。

「二万作のショートショートだ。こんなの見た事がない」
「一体どんな作品でしたか？」
「……たいていニンマリじゃ」

海底に張り詰めた静寂が訪れた。