ヘリオガバルスの薔薇

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辺りには人が眠るように横たわっていた。ただ、私はそこに立ちすくむしかなかった。誰も起き上がらない。誰も息をしていない。
辺り一面が華やかなバラの香りで包まれていた。しかし、薔薇はどこにも見当たらない。
ここはとある美術館の展示会場だ。目の前にあるのは「ヘリオガバルスの薔薇」という絵画だ。
皇帝ヘリオガバルスが、宴に招いた客人の上に大量の薔薇の花びらを落とし、窒息死させて楽しんだという逸話を絵にしたものである。
その絵を観ていた人達が、一斉に倒れだしてこの有様だ。
次は私の番なのか?
身震いしていると、息が苦しくなってきた。喉の違和感に激しく咳き込むと、嘔吐してしまった。
唾液に絡まるのは赤いどろどろした塊。…花びら?
薔薇の香りが一層強くなる。
天井から大量の薔薇の花びらが降り注いできた。

意識が遠のく中で、酒を含みつつ笑みをこぼす皇帝ヘリオガバルスと目が合った。
その他
公開:20/02/22 22:38

夜野 るこ

  夜野 るこ と申します。
(よるの)

皆さんの心に残るようなお話を書くことが目標です。よろしくお願いします。

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