花見サワー

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家飲みがブームとなっており、紅白桜酒造は缶チューハイの「花見サワー」を新発売した。
春だけの季節限定で、商品名は『桜之下』だ。その名のとおり自宅で桜の花を見て愛でるサワーという。
花見サワーは、四十七都道府県から原産地を選べ、生まれ育った奈良県の花見サワーをコンビニで買い求めた。
帰宅してから花見サワーをグラスに注ぐと、代わり映えしない無色透明な液体が出てきた。ただ、驚くべき光景はこれからだ。
明るい室内を真っ暗にすると、花見サワーの入ったグラスの中で桜の花びらがひらひらと舞っていた。優雅で実に美しい。奈良県の場合、満開の山桜の花びららしい。
花見サワーを一口啜ると、吉野山の千本桜が脳裏を駆けめぐり、「夢か現か幻か霞に浮かぶ山桜花」と短歌を詠む声がどこからか聞こえてきた。
幻想的な原風景と懐かしい気持ちで心地よく酔いがまわってくる。
飲み終えると、天井から一片の桜の花びらが舞い落ちてきた。
その他
公開:20/04/04 07:14
更新:20/04/04 09:23
家飲み 缶チューハイ 花見 サワー 奈良県 グラス 山桜 吉野山 千本桜

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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