切手の無い森

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葬儀の済んだ日、彼の部屋には、切手の森が広がっておりました。
元々は、軽い気持ちで始めたのでしょう。出す宛ての無い切手を、せめて世に出してやろうと思ったのでしょう。旅から旅の生涯で集めた、数十万に及ぶ切手たち。寄贈したところで、狭い帳面に閉じ込められたまま。晩年の彼に同じく、何処へも旅する事は叶わないのですから。

正直、圧倒されました。壁は緑の木立でした。幹も梢も、込み入った枝葉も、重ねた切手が茂らせたものでした。床にはとりどりの切手が花を咲かせ、天井は空色と雲色の切手に埋め尽くされ。不自由な身体で、総ての気力と命を費やして、それは希望にも呪いにも見えました。丹念に貼り塞いだ窓からは、一片の陽光も射しませんでした。

ですから、私が出すと決めたのです。
残りの生涯懸けて、可能な限りの切手を剥がし、手紙に貼って世界中へ旅に出します。彼の本当に辿り着きたかった場所へ、いつか一片でも届く様に。
青春
公開:20/03/10 15:29
べねさん『切手博物館』 コメントプレゼンツ②

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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