横たわる三日月

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旅館もちづきは房総いちの大旅籠である。
ここの若旦那は満月のように福々しく優しい男であった。
陸の竜宮城とも云われるこの旅籠には金銀財宝で作られた金色の風呂がある。
もちづきの金色湯に浸かると薬師神様の御利益で病が治ると噂がたち、益々繁盛した。

ある日、大鯰が暴れ、家を失くした者や湯治客が旅籠の前に溢れた。
若旦那は皆に旅籠と黄金風呂を貸し出した。心根の貧しい者達が釜を掻き、金を爪の間に入れ持ち帰った。少しづつ、でも確実に金色風呂は唯の風呂と成った。

次に疫病が流行った。
若旦那は再び旅籠と風呂を貸し出した。病人が薬湯に浸かると疫病は見事に治まるが、健康な客達は病を畏れて遠のいた。
「もちづきの湯に浸かると病になる」という噂すらたった。

時は流れ福々しい月は見る影もなく、荒寥たる海辺に痩せた三日月が横たわるのみである。
私は信心してくれたかの旅籠が再び満ちて満月と成る事を願っている。
ホラー
公開:20/03/08 18:56

椿あやか( 猫町。 )

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