天然エビフライ

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新鮮な天然ものが手に入ったから、と友人の大吾に呼ばれ家へ行くと、台所には揚げる前のエビフライが山になっていた。
せっかく新鮮なのにエビフライかよ、と思いつつしばらく待ち、やっときた大吾の両手の皿に驚く。右手の皿は揚げたてのエビフライ。けれどもう片方は、揚げる前のエビフライだったのだ。
「ギャグかなんかのつもり?」
「は? 刺身じゃん」
「なんだって?」
「エビフライの刺身。せっかく新鮮なんだし」
「そっちは?」
「これはエビフライの素揚げ」
大吾は、ま、なんでも素揚げは美味いからなと言って、刺身の皿を俺に寄せた。
おそるおそる口にしてみると、エビフライの刺身は、予想外に美味かった。柔らかな衣に磯の香りがきいている。エビフライが泳いできた海が、目の前に浮かんだ。
大吾は、初めての体験に感嘆する俺の横で、
「俺、生のエビフライ殻ごと食べるやつ初めて見た」
と笑いながら、衣からエビを引き抜いた。
その他
公開:19/12/25 07:41
更新:19/12/25 18:59

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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