呼吸

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 男は重度の閉所恐怖症だった。閉じこもった空間にいると呼吸ができなくなるのだ。その症状は幼少期に、母親がトイレで気絶した息子を発見したことで判明した。
 両親は家を改築した。壁を全て取り払い、息子がどこにいても目につくようした。しかし、少年はだんだんと家の中でも息苦しいと感じるようになってきた。

 やがて一家は田舎に移り住んだ。地方の澄み渡った空気に少年は満足していた。だがある日、両親が買ってきた地球儀を見てから、自らが地球という星の中に閉じ込められていると知ると、日に日に息苦しさが増していった。

 このままでは、やがて窒息死してしまう。男は文字通り死ぬ気で勉強し、やがて宇宙飛行士になった。そして今、宇宙空間にいる。
 ああなんて素晴らしい場所なんだろう、心が満たされる。だが、なんだこの息苦しさは。
 男はすぐに違和感の原因を見つけ、満足そうに宇宙服を脱いだ。
SF
公開:19/10/07 22:21
更新:19/10/08 19:44

はつみ

現実世界の2次創作
誰かに教えたくなるような物語を書きたいです

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