「中敷師」のいるお店

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 10月なのに暑い。革靴が蒸れるので中敷を買いにきた。
「お客様でしたら、そうですね…… #80がオススメです」
「中敷師(シューインナーフィッター)」という腕章を付けた若い店員が、棚からシートを二枚取り出して台上に置いた。
「ではオーダーカットいたします。裸足になってここへ足を載せて下さい」
 さすがはシューインナーフィッターだ、と感心しながら、私は蒸れて湯気の立つような足裏をシートへ乗せた。
「オイオイ。これ、紙やすりやないかい!」
 その瞬間、私はそんなエセ関西弁で突っ込んでいた。
 湿った足裏を刺激するザラリとした感触に、私は総毛立っていた。だが中敷師は、足の輪郭に沿ってチャコペンを走らせながら、平然と頷いた。
「ええ。ですので靴下は履かないでください。最初は違和感がありますが、癖になりますよ」
 紙やすり160円。技術料5,300円。計5,460円。だが、満足度はプライスレスだ。
その他
公開:19/10/04 11:36
更新:19/10/04 11:57

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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