ふくらみながら溶けていく

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 パチパチパチ。私の輪郭の全部で微炭酸が弾けているみたいにむず痒い。真っ暗なICUで、私は絶えず私の形が変化していくのを感じている。
 石鹸水にストローを差し込んでブクブクする感じ? 泡は外へと膨らんでいってやがてパチパチって溶けていくから。「じゃ、石鹸水がなくなったら私も消えるのね?」
「あるものは無くなるけど、ないものはなくならないよ。さ、ちゃんと呼吸をして」
 って先生は言うけど、深呼吸するとパチパチが激しくなって痛い。検査はNGだって。泡の私が吹き飛んでしまうから。153センチ26キロ。病名は…… カイメン何とか。海面・海綿・界面・下位メン?
 透明なテントを満たすブドウ糖やビタミンやミネラルのミストを吸い込んで、私はふくらみながら溶けていく。霞を喰らう仙人みたいだね。もしくはダイソンの扇風機。ふふ。
 溶けた私はICUの微細な隙間を抜けて、外界へ広がっていく。隔離なんて無意味だ。
その他
公開:19/09/29 09:05

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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