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 上司に指定された郵便ポストへ葉書や封書を投函する。ポストの口は想像以上に大きくて四角くて暗い。私はポストの投函口ほど暗い闇を見たことがない。その奥には可能性の宇宙が広がっている。
 広大な可能性の宇宙は、宛名によって次第にすぼまって、番地と名宛人とで現実化する複雑な宇宙物理学で、私には理解することができない。
 だから祈る。
「どうか無事に届きますように。広大無辺な闇の中でゴミになってしまいませんように」と
 私の仕事は、仲間が必死で作成した葉書や手紙が、きちんとリストの本人に届けくように、会社に指定されたいくつかのポストへ分散して投函することだ。その先へ私の力は及ばない。
 「特定消費料金訴訟最終告知のお知らせ」や「請求裁判最終通知書」「アダルト商品料金未納のお知らせ」などを、会社から遠い、ランダムな、周辺に防犯カメラのないポストへ投函する。
 そして祈る。願いは適う。私は生きていく。
その他
公開:19/11/01 14:57

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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