壁の花

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 わたしは壁の花だった。
 舞踏会の日、みんなが踊るのをじっと、眺めていた。
「踊っていただけませんか?」
 素敵な男性から声をかけられた。
「あの、わたし、踊れないんです」
「そうですか、残念です」
 男性はがっかりした様子だった。わたしもがっかりした。
「代わりに少し話しをしませんか?」
 男性は色んな話をしてくれた。中でも、わたしが夢中になったのは異国を旅行した話だった。
「よかったら、いつでも話しに来ますよ」
 それから、彼はよく遊びに来てくれるようになった。
 そして。
「どうか、僕と結婚してください」
 嬉しかった。けど。
「無理なんです。わたしはこの家から出ることはできないんです」
「それなら、僕がこの家に入りましょう」
「そんな」
「あなたと一緒にいられるなら、かまいません」

 今、わたしの横にはいつも、彼がいる。
 壁の中から、異国の話をしてくれる。
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公開:19/11/02 17:03

田辺 ふみ

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