あちらのお客様からの雨雲です

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「あちらのお客様からの雨雲です。」

カクテルグラスの上には小さな雨雲。
まだ黒味が弱くてこれからポツリポツリ降り出しそうな。
こんな若い雨雲をわざわざ贈って寄こすなんてどれだけナンパ下手だと。

「お隣、よろしいですか?」

この程度の雨雲で横に座らせるほど安くないつもりだけど、思いの外いい男。

「でもこれじゃなかなか一杯にならないわ。」

ようやく雨粒を落とし始めた雨雲を爪の先でつつく。
水が無限ではなくなって雨の研究が進んだ。
一回こっきりの使い捨て雨雲とはいえこんな不良品を掴まされるなんて、実は中身は抜けているのかしら。

「その分長く話せますね?」

そのために若い雨雲を連れてきました、なんて。
騙されてもいいと思える男は初めてで、つい指先が疎かに。
パチンと爪先に落とされる雷。
これは運命か波乱の予感か。
グラスが雨で満ちてもまだ話が尽きなかったら流されてみようか。
ファンタジー
公開:19/10/31 22:26

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