般若のキーホルダー

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「もはや『戦後』ではない」
昭和31年の流行語にもなった言葉である。その年に俺たちは生まれた。
小学生の将来の夢は、10人中8人が、男子はプロ野球選手、女子はスチュワーデス。その時代に「ギャングのボスになる!」と言っていた男がいた。それはエビちゃん。
エビちゃんは中3の夏、盗んだナナハンで大洗にツーリング。当然無免許。俺に「般若のキーホルダー」を買ってきてくれた。
「これじゃどこの土産か分かんねえべよ」
「何言ってんだよ。裏見てみいよ」
裏には、下手くそな「大洗」の文字が、彫刻刀で刻まれていた。
20世期最後の年の春に開かれた小学校のクラス会で、エビちゃんが言った言葉。
「全身彫りもん入れてっから、皮膚呼吸ができねぇんだ」
あいつは、本物のヤクザになっていた。
その年の暮れ、癌で逝った。享年44歳。
自分の夢を半ば叶えたエビちゃんは、人生の節目を迎えた。終焉という名の節目を。
その他
公開:19/10/26 13:57
更新:19/10/26 14:03
節目

渡辺 隆一( 千葉県野田市 )

千葉県野田市在住の、渡辺隆一です。
小学4年生の頃から、文章を書くのが
好きで、今も、趣味で書いています。
ショートショートが、好きです。

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