絶対文字感

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幼なじみのケイトはスペシャルな男だ。
勉強ができて、野球をやればエースで4番。将来は大リーガーも夢じゃない。ケイトの未来を想像するだけで、僕は誇らしい気持ちになる。
読書家で博識。話し上手で字もうまい。
「ケイトには欠点がないね」
僕がそう言うと、
「あいが見えないんだ」
と、すごいことを言う。
くわしく聞くと、彼には絶対文字感という活字中毒の症状があって、野球のボールがひらがなに見えるらしい。
彼の眼球には小さな穴、欠点があって、あと、いと、ひが見えないという。
「治療法は?」
と僕が聞いても、彼は困り顔で、あいが見えないと繰り返すだけ。
高校生になると、彼はあいを知って欠点を埋め、甲子園で大活躍をした。誰もがプロ入りを願ったが、彼は野球を辞めてしまう。
「ひが打てないんだ」
ひの打ち所のない彼は、僕の前で、よと、わと、ねを吐き、ぐと、ちをこぼした。
僕にも、ひらがなが見えはじめていた。
公開:19/06/03 16:20

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