七夕イムトラベル

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星祭りの夜。色とりどりの短冊から青いものを一枚選び、願い事を書いた。
『もう一度あの人に会いたい』
私は祈るような気持ちで筆を滑らせ、笹に託した。それから目を閉じて、手を合わせた。星振りの日の夜風が柔らかく肌を撫で、サラサラと笹の葉を揺らした。
「もう帰って寝るよ」
私の手を引く人がいる。驚いて見ると、私の母だった。
「さとこは手が温かいねえ」
私の手は小さな子どもで、母の手の中にすっぽり収まっていた。
あの頃の家に帰り、テレビを見ながら一緒にご飯を食べて、母とお風呂に入り、そしてあの布団に一緒に入った。
私は母にお話をねだった。夜は暗くて寂しいから、母の声が聞きたかった。
「寂しがりやだねえ、さとこは」
それから十年が経ち、母が死んだ。一度目と同じ日だ。
私は耐えられず、七夕にもう一度短冊に願い事を書いた。
『もう一度……』
星振りの風が短冊を空へ吸い上げる。サラサラと笹の葉を揺らした。
ファンタジー
公開:19/07/07 23:06
更新:19/07/08 07:37
七夕 タイムトラベル

風月堂( 札幌 )

400文字の面白さに惹かれて始めました!
文字や詩のようなものを書くのが趣味です。
情緒不安定気味でアゲサゲ落差のひどい人間ですw
いろんな方々の作品を読んで、心を豊かにしていきたいです。

無料の電子書籍をつくりました。
『ショートショート作品集カプセルホテル【】SPACE』
a.co/1VIyjHz

『枇杷の独り言』
ショートショートコンテスト『家族』最優秀賞頂きました。

写真は全て自前でやっています(笑)

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