太陽のリング

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早朝の薄闇のなか同棲中の彼に起こされ、突然、指輪を渡された。
「結婚してほしいんだ」
プロポーズだと分かった瞬間、私の眠気は吹き飛んだ。そしてうんと頷くと、彼は途端に笑顔になった。
にしても、こんな朝早くになんでまた。尋ねると、彼は言った。
「これを一緒に眺めたくって」
彼は指輪を手に取った。改めて見ると、それは装飾のない至極シンプルなものだった。
そのとき、指輪の頂上が薄っすら光りはじめたから驚いた。
「太陽石っていう特別な宝石が使われてて。日の出に合わせて宝石部分が現れるんだ」
光はどんどん昇ってくる。その光景を眺めるうちに、彼との思い出もよみがえる。希望峰、福寿岳、笑来山。私たちは趣味の登山でいろんな日の出を拝んできた。
でも、指輪の上のご来光は、そのどれとも違っていた。
私は願う。
――ずっと幸せでいられますよう。
ブリリアントカットされたその小さな太陽は、世界を虹色に染めあげた。
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公開:19/04/20 16:53
更新:19/04/20 17:32
結婚祭り

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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