内臓二十物語 第五臓(膵臓)

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僕の体の中に魚が泳いでいる。
「膵臓はね、魚の形をしているんだよ。ここが頭、ここが体、ここが尾ひれ」
僕の体の中の魚は今、元気がないんだ。病気になって体が溶けかかってる。
夜になると、魚は僕の体から出て、病室の中を泳ぎだす。でも元気がなくて、泳いでいてもすぐに沈んじゃいそうだ。
その夜、僕は夢を見た。ゆらゆらと流されて沈みそうな魚を、追いかける。尾ひれに手が届いたその瞬間魚の体がちぎれた。
「お魚さん!」
目を覚ますと、海の底のような色をした病室にいた。
僕の魚は床に沈んでもう死にそうだ。その時バシャンと音がして隣の子のベッドから元気な魚が飛び出てきた。僕はベッドに立ってそれを捕まえた。ピチピチ元気な魚は大きく跳ねて僕の体に飛び込んだ。

次の日隣のベッドは騒がしくて、あの子は別の病室に移ったみたいだった。
新しいお魚さんは僕の中で元気で泳いでて、僕はすごく気分がいい。きっとすぐに退院だ。
その他
公開:19/04/04 22:02
更新:19/04/18 22:28
内臓二十物語 第五蔵 原案そるとばたあ

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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