硝子の籠目

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硝子で編まれた、生ける籠が海に居る。
偕老同穴(かいろうどうけつ)――『ビーナスの花籠』とも称ばれる海綿である。その芸術的造形を、言葉で語るのは難しい。溜息の零れる様に精緻な籠目の内で、彼らは透き通ったエビを飼っている。

ドウケツエビ。幼体の間にペアを作り、偕老同穴の中で成長する。初めは雌雄未分化で、成長と共に分化し、夫婦になる。一つの籠に一対暮らし、命を全うする間、離れる事がない。
子供の頃は通れた籠目も、大きくなると抜けられない。外界から隔絶された硝子の家に護られ、囚われ、互いだけ感じながら、ひっそり生涯を閉じる。

『生きては共に老い、死しては同じ穴に葬られる』
詩経に謳われ、夫婦の契りの堅さに準えるドウケツエビ。もし籠目に阻まれ、触れる事も叶わないとしたら。同じ穴に暮らしながら、届かぬ伴侶を偲び続けるとしたら……?

物言わぬつがいを閉じ込めた棺は、問うても何も教えてはくれない。
その他
公開:19/01/25 12:00
深海生物シリーズ④ 偕老同穴(かいろうどうけつ)

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

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