ボトルの鼻水

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風呂場の空気を入れ替えようと、鼻水をすすりながら換気をしていた。と、シャンプーボトルのノズルの先からポタポタと液体が垂れていることに気がついた。変だなぁ、壊れたのかなぁと思っていると、不意にノズルが「くしゅん」と大きなくしゃみをした。そして長く垂れた液体をズズッとすすって素早く引っこめたのだった。

ははあ、このボトルも鼻風邪なのか。

鼻風邪のつらさなら、自分もよく分かっている。何かやってあげられないか――。
そうだ、と閃き、おれはある物を持ってきた。それは自分も使っている点鼻薬だ。ノズルの先にシュシュッと何度かかけてやる。
「よくなるといいな」
おれはボトルに言って風呂場を出た。

薬の効果はてきめんで、ボトルの症状はずいぶん和らいだようだった。
その証拠に、あとで風呂場を覗いてみると、ボトルは安らかに眠っていた。
ノズルの先に、鼻提灯をぶらさげながら。
ファンタジー
公開:18/10/31 10:50

田丸雅智( 東京 )

1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務める。また、全国各地で創作講座を開催するなど幅広く活動している。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。

◆公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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