旅人の石

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祖父は旅人だった。
行き先不明の旅――それは家族に不安をもたらしたけれど、ふらりと帰ってきては笑ってはぐらかしてしまうのだった。
ある時のこと。祖父は私に、ひとつの石を手渡して言った。「これは魔法の石だよ」と。
その石に触れた瞬間、自分の記憶ではない「人生」が流れ込んできて驚いた。私が目を丸くしていると、祖父はそっとほほ笑んでつづけた。
「いつか大人になったら眺めてごらん」
怖くて宝箱の隅に追いやっていたけれど、二十歳を過ぎて、やっと勇気がわいた。深呼吸してから石に手を置いた。
夕暮れの道を歩く一人の人物の背中。雨宿りした無人駅のベンチ。名前を交わさない誰かと分け合ったパン。行かなかった分かれ道を、あとから振り返る気配。もう戻れない町の匂い――石はさまざまな思い出を映画のように映しだして、静かにその効力を失った。
祖父は生きた証を知ってほしかったのだと思ったら、涙がしばらく止まらなかった。
ファンタジー
公開:26/02/12 08:19

いちいおと

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintやAIで作成しています。

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