小説のネタ

8
1

年金暮らしになってから小説を書くのが趣味となった。万年筆を持ち、原稿を前にすると時間を忘れて夢中になる。
ところが、調子がいいのは最初のうちだけ。アイデアは徐々にしぼみ、泡のように消えてしまったのだ。

「散歩でもしたら題材が見つかるんじゃない?」
妻にそう言われて外に出たもののそんな都合よくおもしろいネタが転がっているわけがない。

ならば自分で何か行動を起こして、それを書けばいいじゃないかと思いついた。
例えば泥棒になりきり、逃亡者の設定で防犯カメラを避けながら家に帰るとか。
すると、意外にも何とも言えない高揚感が湧いてきて、筆がスラスラと滑らかに動き出した。

これはいい。明日はちょっと気分を変えて殺人犯にでもなってみるか。

そして―。
我に返った時には警察にいた。
小道具のつもりで包丁を家から持ち出して、通報されたのだ。

「小説のネタ集めで」というのは通用しなかった。
その他
公開:22/09/01 19:23

ナユセナユ

どんでん返しが好き。ちょっとずつ書いていきたいです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容