ビール傘

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雨が降っている。

――よし!

いよいよデビューの日だ。二十歳になって、ずっと雨を待っていた。
僕は意気揚々と中ジョッキのビール傘を掲げて外に出た。
下校中の高校生たちとすれ違う。ウーロン茶傘、ジンジャーエール傘、コーラ傘……。
そうそう。僕も今まではそうだった。思わず頬が緩んでしまい、慌てて元に戻す。
コーヒー傘や紅茶傘はちょっとお洒落な感じがするけど、やっぱりビール傘でなくちゃ!

交差点の赤信号で止まると、「カチンッ」と、目の前のカシスオレンジ傘に当たってしまった。ビシッとスーツを着た若いOL風の女性だ。

「あ、すみませ――」

――カチンッ!

梅酒傘、焼酎傘、日本酒傘、ウィスキー傘を持った人たちが次々と僕の傘に乾杯のアタックをしてくる。

「一杯、やっていきますか」

鶏のから揚げ傘を持ったサラリーマン風の人がそう言ったのを合図に、みんなで向かいの居酒屋になだれ込んだ。
その他
公開:22/08/01 19:12
更新:22/08/06 15:35
ビール

トガシ( 北海道オホーツク )

ショートショートをほとんど書いたことがないため、鍛えようと思います。
北海道、オホーツクの小さな町で個人事業(デザイン関係とWebライター)でひっそりと暮らしています。(茨城県つくば市出身)
小説やエッセイを書いたり、ピアノを弾いたり、写真を撮ったり、FMラジオを聞きながらドライブしたり、山下達郎を熱唱したり。

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