シュカブラに泳ぐ

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北おろしの過ぎた朝、雪原に見渡す限り漣が打っていた。
冬山の海と詩人が詠った、シュカブラはノルウェイ語の『波』だったろうか。暴れ足りない風の後肢が雪飛沫を撥ね、梢を掻き撫でていくざらついた音色は、なるほど潮騒にひどく似ている。

銀と青で刻まれた波紋を縫って、蛇行する白が雪原を切った。
スノーフィッシュ。憶えのない言葉が頭に躍り、潜り込んだ白い何かの様にフイと消えた。
竜かも知れないな。また唐突に思う。あれはきっと山に居るモノで、北おろしにのって海を渡るのだ。だとしたら今日は間違えたに違いない。なぜと言って、この波はあまりにも海なのだから。
――おいで。おいで。波はここにもある。
とうに消えた仮想のスノーフィッシュを、僕は頭の中に呼んだ。脳味噌の皴を泳ぐ雪白の竜。その光景はいたく僕を満足させた。

目を戻した雪原の遥か先、白い影が空へ跳ねた。
一抹の落胆を押し込め、泳ぎ去る影に手を振った。
ファンタジー
公開:21/02/17 00:36
シュカブラ/skovla 風雪紋。雪面に刻まれる波模様。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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