走る。

よーい。
どん！

おぎゃあ！

丸々した足が宙を蹴る。
母の手を離して二歩三歩。手をついてはまた立ち上がる。
サンタへの手紙、親に内緒のテスト結果、憧れの人の写真、涙の跡のラブレター。
バトンのように握りしめて。
受験と就職のハードル。自分を励ます女性があったりなかったり。
妻、とゼッケンをつけた女性が現れる。
障害物マラソン。坂道、くねり道、泥道。そして雪道。
妻は小さな子を抱き応援者に。
借り物競走。恩を借り、カネを借り、知恵を借りる。
つまずく。抜かれる。抜く。
家族の応援の声が増える。彼らも年を重ねる。妻と子が衝突する景色。
妻だけになる。
やがて子が子を抱いてまた応援に加わる。
汗を拭うふりして涙を拭う。
父母の背中を見たような。
最後の心臓破り。妻が伴走に戻り両手で背中を押す。
ゴールが見えた。その先は憧れた空。
ゴールの瞬間、妻の顔を見つめる。有難う、と妻の声。
宙を蹴る。