いたずら

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親父の葬儀会場に着いた。
大喧嘩で火花を散らし家を飛び出してから二十年。
お袋は一瞬驚いた目をしたが何もなかったようにまた目を伏せた。
親戚たちは明らかに意思のある目をした。目だけで憤怒の形相を完成させた。
妹からの父重篤の報にもオレは帰らなかった。

刺すように冷たい視線を浴びながら焼香台に歩む。
とっ掴み合いしたあの日から二十歳年をとった親父の遺影。
線香を一本手にとり、ろうそくの火に当てる。
ふわっと風が流れ邪魔をした。
もう一度つけようとした。またしても灯らなかった。
また繰り返した。だめだ。不格好なほどにもたついた。
線香を替えて試す。だめだ。
焦りで足が細かく震え始めた。
弱った顔をして後ろを振り向くと、お袋が心配そうな顔をしている。
親戚たちが相変わらずだなぁと緩んだ顔を見せている。

再び祭壇を向いた。
親父がザマアミロと勝ち誇っている。
親父、アリガトウ。どうか安らかに。
その他
公開:20/10/31 19:31
更新:20/12/11 15:17

MIKI( インドネシア )

インドネシア暮らし

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