光の妖精(5)

6
3

(承前)
「お願いだから、姿をもっと見せて欲しい」妖精が本を受け取るとき、彼は叫んだ。「もう一度だけでも」

「『我が童たりし時は謂ふ事も童の如く、觀る事も童の如く…」「…按ずる事も童の如くなりしが、大人と成りては童の事を棄てたり』…」「…こんなにも立派な本をありがとう…いつまでも大切にするよ…」妖精の声は徐々に遠くなり、やがて消えた。「さよう…な…ら…」

「ま、待ってくれ!」しかし、森はしんと静まり返っている。いつの間にか陽は暮れて、闇があたりを包み始めた。
運転手が電灯を手に近づいて来た。「旦那様のお戻りが遅いものですから探しに参りました。大丈夫でいらっしゃいますか。さあ帰りましょう」

彼は、自宅へ向かう車に乗り込んだ。
手の中には栞だけが唯一残されていた。本と同じ革で作られたそれを見つめ、妖精の透き通った微笑みを思い返す。窓の外では、夜の景色が幾筋も真っ直ぐに流れていった。(了)
ファンタジー
公開:20/02/02 00:03
更新:20/02/02 07:57
昔話 翻案

白ねこのため息( あちらこちらにいます )

2019年9月14日から参加いたしました。
しみじみとした後味や不思議な余韻が残る作品を目指しています。
どうぞ宜しく…。
ちなみに、写真は一部を除き、全て自分で撮影したものです。併せてお楽しみ下さい。

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現在、資格取得(英検1級など)の勉強中のため、投稿ペースが落ちていますが、
これからも引き続きご愛顧のほど、何とぞ宜しくお願いいたします。ペコリ。
 

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