光の妖精(3)

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(承前)
車を待たせて、彼は森へとひとり入った。ここに来るのは50年ぶりだ。しかし、何もかも当時のままであった。鬱蒼と繁った木々、葉からきらきらと漏れる光。仄かな蒼い香りと、金や銀の小片のように煌めいて聞こえる幽かな音…。あの頃と全く同じだ。

確か妖精と約束をした場所は、大きな樹の下だったはず。彼は歩く。すると、樹齢千年はゆうにあろうかと思われるその大樹は、昔のまま悠然と森の中に佇んでいた。これも変わってはいなかった。
樹を遥か見上げ、太い根をまたいで周りを歩けども、妖精の姿は一向に見つからない。既に半世紀が経っている。あまりにも遅過ぎたと感じた。

そのときである。大樹の枝や葉の間から声が木霊してくる。「やあ、こんにちは…」「よく来たね…」「ここにいるよ…」あのとき耳にした囁くような妖精の声。
それを聞いて、彼は草臥れた革の表紙の本を抱えたまま膝まずき、おろおろと泣き始めた。(つづく)
ファンタジー
公開:20/01/27 09:31
更新:20/01/27 21:18
昔話

白ねこのため息( あちらこちらにいます )



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