おじさぁーーん

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曇天の休日は傘を持たずに断崖の淵を歩くのが楽しい。
前を歩くスーツ姿のおじさんから何やらポタポタと黒いしずくが落ちている。
「何か漏れてますよ」
声をかけるとおじさんは足元を見て「うちのが泣きやまないんだよ」と言った。
聞けば20年飼っていたアオリイカが突然死んでしまい、家で奥さんが寝こんでいるという。おじさんは奥さんを元気づけようとこの崖に実る天然のプリンを取りにきたらしい。
滴っているのはカラメルだ。内ポケットのプリンにはもうほとんどカラメルは残っていないだろう。悲しそうなおじさん。妻を思う気持ちが伝わってくる。
でもこれは密プリンだ。僕は警察官であることを明かした。確認のために舐めたカラメルは震えるおいしさだった。おじさんは謝り、摘み取った場所に僕を案内した。
崖っぷちで風に揺れているプリン。
手を添えようと駆け寄る僕の背中をおじさんの手が、手ぶらでは帰れない、そう語るように押した。
公開:20/03/24 09:36
更新:20/03/24 09:38

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