引き出しの海

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思考が煮詰まると、僕は机の引き出しを開ける。
大した物は入ってない。開閉が波音に聞こえたり、隙間に潮風が吹いたり、たまに海水が跳ねるくらい。
引き出しの中が、どこだか知らない海と気まぐれに繋がる。それは概ね、僕が暗礁に乗り上げ、自分でも救助し様がなくなった時だ。

海は僕に何もしない。ただ広がってる。凪いで青かったり、暮れて橙だったり、灰色に時化てたり、涸れて砂漠だったりする。
まともな生き物はいない。代わりに変なのが氾濫してる。限りなく実在性不透明な海を、僕も黙って見つめる。


色鉛筆24本が、付せんの群生を縫って泳ぐ。三角定規と分度器を、刃を剥いたハサミが追う。半透明の消しゴムが漂い、のりが底辺を這い、カッターがグリップを立てて隣へ跳ぶ。
一番深い引き出しから、悠然と浮上したキャンパスノートが、僕の頭上へ文字を噴き、また悠然と潜って行った。
昔手書きした『。』が、睫毛を滑って落ちた。
ファンタジー
公開:20/03/22 23:28

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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