118.『形見の腕時計』

4
8

3年前父が死んだ。財産は無かったが、しかし負の財産はあった。

形見分けで僕は父のヨレヨレになった黒い腕時計を貰った。

妹はろくなものないと全てごみとしてゴミステーションに出した。有料ごみ袋代は僕が出した。

以来毎日それを付けている。肌身離さず付けている。仕事の時もプライベート時も寝ている時も、どんな時も。


ある日黒い腕時計が進み出した。1週間で49秒くらい進む。1ケ月換算で約3分だ。

週末毎に何回も時間を戻していく日々。その作業で父を亡くした虚無感を紛らわしていたことに気付く。


その日は大事な顧客との商談があり、絶対に遅刻できなかった。腕時計を確認する余裕も無かった。

「お約束の時間に遅れてしまい大変申し訳ございませんでした」

その瞬間ぷつりと時が止まった。僕の腕には大学生時代にしていた時計が…。


今度は時が進み過ぎる。軽快な音楽と共に1秒又もう1秒…又針を直す……
その他
公開:19/02/17 09:14
更新:19/06/15 20:13

ゆっち( 北海道 )

星新一さんを尊敬しています。ショートショートが大好きな気持ちは永遠です。
 

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容