父の願い

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父が倒れた、と母から連絡があった。僕は急いで帰省した。
母によると、幸い大事には至らず、本人の希望もあって1日で退院したらしい。
「でね、お父さん禁煙始めたのよ。さすがに応えたんでしょうね」
父は庭仕事をしていた。僕が「元気そうだな」と声をかけると、こちらも見ずに「まあな」と答える。
「父さんは何か願い事はある?」
「なんだ突然」
「いや、今日七夕だな、と思って」
すると父は、背中を向けたまま答えた。
「煙草が吸いてえな」
やめたばかりだろ、と僕は笑った。それが、父と言葉を交わした最後だった。
以来、毎年七夕には1本だけ煙草に火をつける。初めて吸った煙草は、ひどく不味かった。
今年もたくさんの願いが、ゆらゆらと風に揺れている。だけど、あの日の父の願いは今も、僕の手元に残ったままだ。
短冊に書くほどのものでもないしな。
雲一つない空を眺めながら、僕は今日10本目の煙草に火をつけた。
公開:18/06/13 18:53

如月十九

          楓 木蘭の涙 少年時代 なごり雪

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